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Serpent a Plumes(明日を夢見て)/Isabelle Antena

Serpent a Plumes


Serpent a Plumes
 Isabelle Antena
 収録アルバム:Intemporelle
 release:1990

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フランスのシンガー、イザベル・アンテナ(Isabelle Antena)の1990年の楽曲です。
フレンチ・ボッサの良曲で、日本では当時「明日を夢見て」というタイトルでシングル盤が発売され、エネルギー系企業のCMソングなどにも起用されたりしていましたが、本来のタイトル「Serpent à Plumes」の意味はフランス語で「羽毛をもつ蛇」

最初この事実を知ったときは「エエエ何のことですの?」と驚きましたが、後にこの「Serpnet à Plumes」というのがどうやら遠くメキシコで古くから崇められている神さまの名前であるらしいことを知りました。

調べたところによりますと、Serpant à Plumesは、一般にはケツァルコアトル(Quetzalcoatl)という名で知られる、アステカ神話の中でも最高位に位置する神さまで、風や水、農耕をつかさどるほか、人類が生きていく上で必要なさまざまな知恵や技術を授けたとされる、いってみればアステカのヒーロー的存在の神さまだったようです。

名前のとおり、その姿かたちは翼を持った蛇の姿で表されることが一般的なようですが、ときに人間の姿で表されることもあるそうで、その場合はたいてい白い肌をした美男の姿で描かれることが多いそうですが、絵文書によっては鳥のくちばし型のマスクをつけた人間の姿で描かれていることもあるとのこと。なるほどたしかに、アンテナの曲の中にも、

 Serpent à plumes(セルパン・ア・プリュム〔ケツァルコアトル〕)
 Un homme oiseau et serpent(鳥と蛇の(特性をもつ)人(男性))

といった歌詞が出てきます。

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ケツァルコアトルの石像 Image by Rodrigo de la torre from Pixabay

ケツァルコアトルについては、さまざまな逸話(伝説)が残されているようですが、なかにはなかなかに悲劇的なものもあります。
人間を愛し、平和を重んじる慈悲深い神だったケツァルコアトルは、アステカ人の慣習になっていた人身御供の儀式を嫌い、人々にこの習慣をやめさせようとしますが、このことで実兄にして最大のライバルである生贄擁護派の神、テスカトリポカの恨みを買ってしまいます。どうにかにしてケツァルコアトルを失脚させたいテスカトリポカは、ケツァルコアトルに呪いをかけた酒を飲ませることを思いつき、そうとは知らずにこの酒を飲んで正体なく酔っぱらってしまったケツァルコアトルは、錯乱状態の中で事もあろうに実の妹と関係を持ってしまうという禁忌を犯し、結果、その罪でアステカの地を追われてしまうことになります。その後のケツァルコアトルの身の処し方については諸説あるようで、自分の王宮に火を放ったのち自らも火に飛び込んで生贄となった、金星に姿を変え天の彼方へ昇っていった、再びの帰還を予言してアステカを去っていった・・・などさまざまです。特に「帰還を予言して去っていった」説には興味深い続きがあり、ケツァルコアトルの帰還を待ち望んでいたアステカの人々は、16世紀になってメキシコにやってきた”白い肌”をしたスペイン人の侵略者たちのことを、予言通りケツァルコアトルが戻ってきたと思い込み、警戒するどころか手厚く歓待し、結果、この大いなる勘違いがアステカの滅亡を早める要因になってしまったのだとか・・・。もっともこのエピソードは、最近になって後世の作り話だとする見方のほうが強くなっているようですが、この手の創作話が乱立するのも、ケツァルコアトルがいかに時空も国境も超えた人気者であるかという証であるのかもしれません。

歌の中にも

Serpent à plumes(セルパン・ア・プリュム〔ケツァルコアトル〕)
Attendant ton retour(あなたの帰りを待っています)

というフレーズが繰り返し登場します。

残念ながらこの曲に関する言及は少なく、確かなことは何もわからないのですが、おそらくはこのアステカのドラマティックな伝説に触発されて作られた歌なのではないのかなあと勝手に想像しています。

エキゾチックで神秘的で、とても美しい曲です。

 

  作品データ  

Serpent a Plumes(明日を夢見て)
リリース:1990年
歌:Isabelle Antena
作詞:V.Fasy
作曲:P.V..Dormael