昔から歌の世界では「港町の女は捨てられる」となぜか相場がきまっています。
一般的なのは、オペラ「蝶々夫人」の蝶々さんのように、あんまり外の世界のことを知らない純真無垢なお嬢さんタイプの女性が、調子のいい薄情男にだまされ捨てられ、悲しい憂き目を見るパターン。一方これとは真逆の、船乗り相手の酒場女や踊り子といった、一見派手で男性の扱いにも手慣れている感じのちょいワル風な女性が、ある日突然遊び人に本気で恋をし、あえてだまされるのを承知で不幸な恋にのめりこんでいくというのも、古今東西を問わず港町を舞台にした歌ではまま見受けられるおなじみの展開です。
いずれにしてもエキゾチックな港町には悲しい女の恋物語がよく似合うようです。
さて、このザ・ピーナッツの「サンフランシスコの女(ひと)」にも、港町サンフランシスコを舞台に、いかにも薄情そうな男にこっぴどい振られ方をする気の毒な女性が登場します。
サンフランシスコの女
ザ・ピーナッツ
Release 1971
どうやら青い瞳の男性と交際していたらしい主人公の女性は、いったい何があったのか、彼氏にすっかり愛想をつかされ、日没がせまる異国のさびしい坂道に一人置いてけぼりをくらうなど、歌詞だけ見る限りではそれはそれはもうひどいふられようです。
サンフランシスコの女 歌詞
しかしいざメロディに乗っかった状態で聴いてみると、全体的にどこかすっとぼけたような雰囲気で、一気に悲壮感が薄まります。おどけた失恋ソングといった感じです。曲の舞台アメリカにふさわしく、カントリーミュージック風ののほほんとした曲調になっているあたりがそう思わせるのかもしれません。
このザ・ピーナッツの「サンフランシスコの女」は、1970年から1972年にかけて「女(ひと)シリーズ」と銘打ってリリースされたシリーズもののシングルの中の一曲のようです。「東京の女」「大阪の女」ときて、シリーズ3曲目にあたるのが今回ご紹介したこの「サンフランシスコの女」。この後、ブラジルを舞台にした「リオの女」と続きます。てっきり地球のあちこちで恋愛模様を繰り広げる一人の女性の一大恋愛叙事詩みたいな楽曲なのかと思いましたが、どうやらそういうわけではなさそうです。
それにしてもザ・ピーナッツも外国の町を舞台にした曲が多い歌い手さんです。
調べたらこんなアルバムまで出てました。
世界の女たち
ザ・ピーナッツ
Release 1972